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レジリエンスと生活力
2020年09月08日

レジリエンスという言葉があります。元々は物理の領域の用語で復元力という意味だそうですが、最近は心理学や一般社会でも、辛い状況や厳しい状況でそれに耐え、しなやかに修復できる力という意味で使われています。

これまで逆境に強いアスリートもそうではないアスリートも見てきました。いったいその差を分けるものはなんなのかと考えてきましたが、レジリエンスに影響している要素を考えるのは簡単ではありません。一般的には自己肯定感が大事という風に言われます。自己肯定感は物心つく前の幼少期の生育環境が大きく影響していると言われていますが、幼少期の生育環境は自分の意思で手に入れることが難しいものでもあります。自分の意思ではなんともならないもので決まるよと言われても、あまりにも希望がありませんし、また実際にそれだけではないようにも感じられます。gritが大切という風に言われますがこれは確かにそうだと思いつつ、gritをどのようにすれば鍛えられるかということには明確な答えが出ていません。

さて、ここで視点を変えて、どのような性質かではなく、実際にどのような行動をとっている人間がレジリエンスが高いのかという部分に注目してみたいと思います。

改めてアスリート仲間でレジリエンスが高い人間の特徴を見ていると実はものすごく単純で馬鹿らしいことに見えるかもしれませんが、生活力が高い人間が多かったように思います。ここでいう生活力とは、収入が高いとかそんな話ではなく、いつもと同じ時間に朝ごはんを食べるとか、夜決まった時間に寝るとかそういう生活のリズムを守り通せる人間のことです。要するに起きれる人、食える人、寝れる人はしぶといということです。

私の世代は朝原さんにとても影響を受けています。朝原さんはまさにこのリズムを貫き通す人でした。例えばシドニー五輪は個人競技で落選をして少し落胆をしたところもありましたがそれでも立て直しリレーでは大いに貢献しました。朝原さんを見ていると夜一緒に飲んだり、それから朝寝坊することもありましたが、大きくずれることなく、気がつかない間にいつものリズムを取り戻しているようなところがありました。このように生活力が高い人というのは決まったスケジュールを崩さないというわけではなく、余白は残しつつ、だけれども中心はけして外さないようなひとです。特に海外のレースなどが増えいつものリズムを守れないのは当たり前ですから、しなやかにリズムを取り戻していくかはとても重要な能力だと言えます。

なぜ生活力が高いとレジリエンスが高いのか。私は結局人間のやる気というのはそれほど確かではなくて、元気がある時にはやる気が出て、元気がない時にやる気が出ないのが当たり前なんだろうと思っています。疲れている時にはお先真っ暗に思えていても、朝起きて元気があれば急に未来は明るく感じるようなところが、人間にはあります。生活が安定していると、寝不足にもなりませんし、疲れが溜まることもありません。元気が出やすい土壌は、生活リズムを維持することによって成立していると思うのですね。つまりレジリエンスが高いかどうかは、逆境そのものへの心の強さよりも、日常の自分の生活を守り通すことで、元気がある状態を保ち切れるかどうかで決まっているのではないでしょうか。

また、選手が逆境に面した時、いろんな情報が入ってきて時に大きく偏った考えを盲信してしまうことがあります。カルトにハマった方の体験記を読んだことがありますが、睡眠不足の状態で勧誘され信仰が始まった例が多いことに驚きました。生活リズムが安定している人間の特徴は寝不足ではないということです。これは実はとても大きな影響があり、毎朝我に返って昨日を振り返ることができれば人はそう簡単には偏らないのだろうと思います。

実家の母親はとても生活力の高い人間で、私がメダルを取ろうが肉離れで予選落ちをしようが、変わらない時間に変わらない朝ごはんを出す人でした。だから私も苦しい状況になればなるほど、朝いつもと同じ時間にご飯を食べるようにする癖がついています。朝起きれば夜は決まった時間に眠くなる。それが私自身のレジリエンスに大きな影響を与えていると感じています。

ということで、レジリエンスを支えているのは早寝早起き朝ごはんではないかという結論に現在のところは至っています。

 

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