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リソースの解放と捨てエリアの設定について
2018年10月16日

諦める力が、文庫本になった。改めて考えてみるとこの本で伝えたかったことの一つがリソースの解放だったと思う。

個人として戦略的に生きることを考えてみたい。まず人生を拓いていきたい人にとっては、とにもかくにももっとも足りないリソースは時間である。どこに時間を割り振るかによって個人の人生は大きく左右される。ところがその肝心の時間がなかなかない。若い時はあったがどこに配分していいか検討がつかなかった。大人になると配分したいけれども余った時間がない。

大人になると人間関係が増える。また自分が関わる範囲も増える。庭が大きければメンテナンスだけで大変な時間が食われる。だから庭師の方にメンテナンスをお願いするが、その庭師の方に庭のありようを説明または指示しなければならないとしたらそれにもまた時間がかかる。ましてや庭を人に見せる機会があったり、庭はこうであってほしいという理想があれば余計にこだわりは強くなる。気になりすぎて庭の剪定を自分でやりたくなってしまうこともあるかもしれない。そうなれば庭が三つもあればもう時間は相当に食われているだろう。この三つの庭はおそらく一つの庭に集中投下した時よりは程度の低い庭になる。また、新しい庭を見つけても、そのことを考える時間が取れない。少し考えたらまた明日がやってきて庭の手入れの時間が来る。

どうすれば時間というリソースを解放することができるのか。自分の思う通りに生きて、余計なことをやるのをやめよう、人にどうこう思われるのをやめようということがシンプルな解になる。その通りかと思うが、一方でこのような考え方に抵抗がある人たちもいる。とくに真面目な人は、諦めないように育っている。庭を改善することをやめたり、ほっておいたり捨てることは諦めだと考えている。大きな意味でやりたいことを諦めないために、リソースを解放しなければならないが、そのリソースが今やっていることを諦められなくて解放されない。このような矛盾を感じ諦める力を書いた。

8歳で陸上を始めてからあの子よりはやいとか、あの子に勝った負けたということばかりを34歳まで繰り返してきた私は、勝ち負けで物事を考える方がすっきりする。このような人間は、先のアイデアを”必要ないものは負ける。そしてほっておく”に書き換える。そのエリアが大きければ大きいほど、リソースが余るので、それを自由に使えるようになる。使わないで英気を養うのもいいし、どっかに集中投下するのも、または新しいエリアを探すことに使ってもいい。ただし、肝心要のエリアも負けてしまえば自分の価値が目減りする。一体なにを負けないで、なにを負けるのか。その方が今やっていることで勝とうとするより大事だと考えるようになった。

敗北エリアに設定するのは心理的に負荷も大きい。何しろこれを拒むのは自分自身だ。敗北エリアで誰かが輝いているのをみるともやもやする。小さな嫉妬心が芽生える。敗北エリアを拡大するということはこれらを向き合うということに他ならない。他人の輝きを喜べるようになれば本物だが、まずは無視できるだけでも相当にいい。一番無駄な時間は、自分とは関係のない他人に対していろいろ考えることだ。レースはいつもよそ見をしない人間が勝つ。

私は人に尊重される人間になりたかった。その為に、どのように扱われるかを考え、自分がどう見えているかを考え、それをコントロールする為にかなりの時間を費やしていた。けれども引退間際にそういった扱いが少なくなったこともあり、一旦冷静に見てみるとなんだか膨大な意識と時間を使っていたとはたと気づき、やめることにした。敗北エリアに設定したことになる。それを決めてから頭がぼさぼさでも、毎回服が同じでも、誰かにあしらわれようが気にしなくていいわけだから、随分リソースが解放された。それで本を読む時間がかなり増えた。少なくとも私は庭が小さくて少ない方がいいと学んだ瞬間になる。

敗北エリアを設定する隠れたメリットは、他人にとても協力的になれるということだ。負けたくないエリアに相手が重なって来るとどうしても張り合うか、守ってしまう。ところが敗北を設定しているエリアであればいくらでも人に勝ってもらっていい。いや、むしろちょっと手伝えば自分も勝利に混ざれた気分になって心地いい。敗北エリアを設定するようになってから人に張り合うことが少なくなり、協力することが増えた。そうすると仲間が増える。飲み会が楽しくなる。いいことづくめだ。

第一人者とは局所的なエリアを占領した人を呼ぶのだと私は思う。全体に散らばって少しずつ抑えている人は第一人者とは呼ばれない。そして全体を監視しなければならない人は、ほとんどの時間を監視と管理に費やす。最近は敗北エリアをたくさん設定したので随分リソースが解放された。余ったリソースは仕事と、本と、息子に投下中だ。

 

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