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スタートダッシュとは何か
2017年08月06日

サニーブラウン選手がスタートでつまづいてしまい、準決勝で敗退しました。とても優秀な選手なのでこの経験から学習したことを次のチャンスにきっと生かしてくるのでしょう。さて今日は、スタートとは何かを次の三つの観点から解説したいと思います。

①スタートの目的とは何か
②スタートの難しさとは何か
③スタートのどこを見ればいいか

①スタートの目的とは何か

陸上競技の短距離とはいろいろと技術はありますが、一言で言えば胴体を誰が一番ゴールに早く運ぶか(胴体でゴール判定するため)という競争です。手足を動かすことも手段にすぎません。当然スタートダッシュも、この目的のためにあります。

スタートダッシュの目的はつまるところ、効率よく加速するためにあります。初速がどの程度出るかによって全体のスピードも影響されます。また、後半に伸びなかった選手をよく見てみると後半のスタミナ不足や技術不足ではなく、スタートで無駄に力を使ったりバランスを崩しているということがあります。そのぐらいどう0から加速するかは重要です。

イメージしていただきたいのですが、掃除の時間によくほうきを手のひらの上に乗せてバランスを取るようなことをやった方がいると思います。または手元にあるペンを手のひらの上に立てても構いません。上手い人はバランスをとってそのまま立てられます。さてこのペンを自分自身が全力疾走する時に、どうすれば倒れないと思いますか?

スタートダッシュの原理はこれになります。つまり進行方向に向け、自分自身を倒していき、倒しすぎてつまづかないよう、または起きすぎて後ろにそっくり返ってしまわぬよう、適切な角度で倒れこみ続けることが重要です。ブロックを蹴って飛び出した瞬間に、自分の足がしっかりと地面を踏める範囲で深い角度を求めることが望ましいと言われています。

100mはその傾きに加え、一歩一歩を地面に力を加え、またその反力をもらいながら前方に運んでいく競技です。バスケットで地面に置かれたボールを何度か叩いて上手にドリブルまで持っていく選手がいますが、あれに似ています。静止されたものに上下動を生み出し、その反発と揺らぎを増幅させながら加速していきます。静止状態のものに揺らぎを加え、その揺らぎを利用し地面に圧力を加え、その反力で自分自身を前方に運んでいくことになります。

②スタートの難しさとは何か

スタートの難しさは競技力に比例します。歩くことより、ジョギングの方が、ジョギングより全力疾走の方が、手のひらの上に置いたほうきのバランスを保つのが難しいように、速度が上がればより角度もシビアになります。スタートで飛び出し、一歩一歩地面を全力で踏み加速させながら、自分の体の角度がそれに見合う角度で徐々に起き上がっていくわけです。そして数秒で時速40km近くに達すると考えると、これがいかに難しいかがわかります。しかも、一度踏み外してしまうと10秒の中で立て直すことはとても難しくなります。

また、バウンドのタイミングも難しいです。トランポリンの上に立っていて、二、三回体を揺らしただけで高くはねあがれるような選手がいますが、あれに少し似ています。静止状態から二、三歩で上下の揺らぎを自分の身体の中に生み出さなければなりません。一方で、その揺らぎはによって自分自身が上下動するとエネルギーが上に漏れていることになりますから、非効率です。身体の中に大きな揺らぎを生み出しながら、自分の身体自体はひらすらに前方に向かって進んでいくことが重要です。風船の中身の水が激しく揺れていながらも、風船自体は微かな伸び縮みをしているだけというのに似ているかと思います。

こういった作業を10秒程度で、50歩以内で、いかに効率よくおこない、自分の胴体を前方に運ぶという競争になります。そしてスタートダッシュはこの、揺らぎと角度の方向性を決める重要なタイミングになります。ここで失敗をすれば、ある程度の大会であればリカバリーできますが、トップ選手が戦っているレベルでは命取りになります。

③スタートのどこを見ればいいか

これは選手によっても違いますが、私は胴体が一直線になり、棒が倒れていく力と、前に進む力が拮抗しゆっくりと斜めの状態から直立に起き上がっていけるかどうかを見ています。さらにこれがうまくいくかどうかはスタートの膝の角度にも影響されます。いいスタートは、出る瞬間にまるで固定されたかのように膝が動きません。いいスクワットと似ています。股関節の出力だけが強調されて見えるスタートはいいスタートです。

また腕の役割は大きく、腕をしっかりと使い地面に圧を加えているかを見ます。緊張したり失敗すると、肩を大きく使いながら腕を振ることが難しくなります。そうなっていないかなどを見ます。

おわり

さてつらつらと書きましたが、これが私にとってのスタートの理解です。見た目にはわかりにくいですが、極めて難しいことを選手たちはやっているわけです。

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