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自分で自分を育てる
2016年02月22日

私は、他競技ではほとんどなく陸上でも比較的珍しい、コーチをつけないというやり方で競技人生を過ごしてきました。組織で動くことが前提かつ洗練されている航空自衛隊の冊子(なんと寄稿するとジャンパーがもらえるという話に飛びつきました。しかも名前入り!)に一体こんな私が何を書けばいいのだろうとずいぶん悩みましたが、一匹狼だったおかげで自分で自分を育てるという経験だけはある程度することができましたので、他に誇れるようなことはないので、自分を育てるということについて書いてみたいと思います。

引退した今、振り返ってみて自分で自分を育てる上で大事だったなと思うことは
・理想を持つこと
・フィードバックシステムを持つこと
・意外性を組み込むこと
でした。

自分で自分をコーチングする上で、理想を持つことは大切になります。どのくらいのタイムで走りたいのか、どの試合でどんな結果を出したいのか、どんな選手になりたいのか。
理想があれば、そこに近づくためにどうすればいいのかを考えるようになります。ですが、ただぼんやりと理想を描いていてもなかなか人間は行動を起こしません。行動でしか人は成長しません。
例えば水切りをするように走りたい→弾むようなバネが必要→ジャンプ練習を三ヶ月間増やして効果を見る、というふうに理想を分解して明日から手をつけられるようにしておくことが大切になります。理想という大まかな方向と、明日から具体的に何に手をつけるのか、この二つが揃うことが大事だと私は考えていました。

二つ目のフィードバックシステムですが、これは普段コーチが行っていることです。人間の行動は多くが無意識で行われています。例えば今日朝歩いて出勤をされた方は、自分が右足を出して次は左足を、、なんて考えてはいないと思います。スポーツの世界全般そうですが、走りは特にその無意識の世界の技術を洗練させなければなりません。自分が普段気づいていない自分をいかに把握するかがとても重要になります。
私は例えば私は必ず練習の前にグラウンドを一周することにしていました。その時に自分の足で得ている感触や自分の心の状態などを観察し、日々の練習の加減を決めていました。また、トレーナーや栄養士の方など、幾つかの専門家の方に今の自分がどう見えているのかという質問をよくしていました。その人からのフィードバックをもらって、自分の状態を客観的に把握していくわけです。

三つ目は意外性です。競技者はある程度熟達してくると、限界を超えるということが難しくなります。若い時、先輩を見てこんなこと本当に自分にできるんだろうかと思っていたことが、目の前にある練習を必死でこなしているうちにいつの間にかできるようになったという経験がある人も多いとおもいます。
ところが人間は熟達してくると、積み重ねだけでは成長しなくなってきます。そうなると何か意外な刺激を自分に入れる必要があるのですが、これが難しいわけです。何しろ自分で自分を驚かせるようなものですから。
そこでトップ選手たちはあの手この手で自分を追い込み、なんとか眠っている能力を引き出そうとするわけです。室伏さんがハンマーをぶら下げてトレーニングをしていましたが、これは鉄球が揺れてしまい予想がつかないので、その意外な動きが刺激を与えてくれるのを狙っていると説明されていました。

考えてみると日本には昔から、剣道、茶道、など”道”と名がついた、最初は師匠がいたとして自分で自分を極めていくという世界がありました。こういう世界は到達点がなく、極めていくそのプロセスこそが重要であると語っているわけです。
スポーツが私にもたらしてくれた最も重要なものは、メダルなどの栄光や名誉ではなく、自分を磨くことの大切さだったのだと思っています。

※航空自衛隊連合幹事会機関紙『翼』への寄稿文をそのまま転載しております※

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